INTERVIEW先輩就農者の声
田村市栽培農作物 キクラゲ、椎茸 など
19年間培った
工業のノウハウを
農業へ
田村市でキクラゲ、椎茸を栽培する「移ヶ茸(うつしがたけ)」の安田悟さん(43)。安田さんは、19年間勤めた自動車部品メーカーを退職し、2020年に故郷である田村市で新規就農しました。自動車産業の現場で培った徹底した合理化の考え方を、余すところなく農業に転換していくスタイルは唯一無二。そんな安田さんの目から見た農業の可能性や今後の展開について伺いました。
必ず一つやりたいことに挑戦する
今の安田さんの目標ってなんですか?「売り上げ」とかじゃないような気がして……。
そんなちっちぇーことは目標にしてない!必ず一つやりたいことに挑戦するようにしてる。去年はドローンで採れたての椎茸を飛ばして近くのキャンプ場に届けるっていうチャレンジをした。今は法律の関係でまだできないけど、ドローンを使って近隣のキャンプ場に自動でキノコを届けるサービスにつなげていく予定。今は、福島県産マッシュルームの復活を目指してる。福島県は風評被害の影響で2012年にマッシュルーム生産者が誰もいなくなっちゃったんですよ。それから10年経ったけど、まだ復活してない。僕がそれを復活させたい!
マッシュルームが復活していないってことは生産に関して何か大きなハードルがあるんでしょうか。
マッシュルーム栽培って通常はヨーロッパから専用の施設や機械を輸入しなきゃいけないから、莫大な資金が必要なんだよね。それを10分の1以下のコストでやろうとしてる。どうやるかと言うと、国内の汎用性のある機械を使うこと。そうすればコストがぐんと下がる。それこそ製造業にいた人間の真骨頂だよね。いろんな会社や大学の先生とも組んで、新しい栽培方法を確立させるための実証実験をしてる。もう2年間試験栽培してきたから、来年から本格的に作っていく予定。低コストマッシュルーム栽培ユニットを開発して、生産者がどんどん増えればいいなと思ってる。生産者が増えれば食べる人が増える。食べる人が増えれば料理方法も定着してより需要が高まる。つまり生産者が増えることが消費者の裾野を広げることにもなるんだよね。
そういう夢や目標が日々の仕事のモチベーションになるんだよな。やりたいことを追いかけてるとアドレナリンが出る。アドレナリンが出た状態でキクラゲや椎茸の仕事をするから、はかどるよね。「やりたいことがやれない」ってウジウジしてると普段の仕事もつまんなくなる。田舎に刺激はねぇけど、なんもねぇからこそ自分で刺激を作れる。そうやって働いてると楽しいね。
安田さんがもし農業をやっていなかったら、どんな人生を歩んでいたと思いますか?
会社で四角四面に、がむしゃらに働いてたんじゃないかなー。サラリーマンに向いてる人と、向いてない人っているじゃん。僕は完全に向かないタイプ。いろいろ我慢しながらやってたから、胃潰瘍にもなったし円形脱毛症にもなった。背中を押したのは「福島県原子力被災12市町村農業者支援事業」の補助金の存在だな。仕事を辞めて挑戦する踏ん切りがついた。
でも、「福島のキノコなんて絶対使わないから」って面と向かって言われたこともある。少数なのかもしれないけど、そう思う人がいるのも事実。大事なのはそこで負けないで、「じゃあどうするか」って考えること。補助金のおかげで最初は楽だけど、12市町村で農業をやりたいなら本当に中途半端な考え方じゃ通用しないと思う。僕は中長期的なビジョンを持って、それを人前で話すようにしてる。人前で話すことによって「言っちまった!やるしかない」って思えるし、夢がある人どうしで応援しあえるんだよな。
改めて、農業やってよかったと思うよ。僕、サラリーマン時代は本当に笑わない男だったから(笑)。昔を知ってる人はみんな「変わったね」って言うんだよ。今はこうやって笑って喋れるんだもん。
取材日:11月16日
取材・文・写真:成影沙紀